湘南ジンベエ皮膚科

尋常性ざ瘡(ニキビ)





ニキビについて

はじめに

このページでは、当院の外来で実際にお伝えしている「ニキビの医学的な原因」「治療の選択肢」「日常ケアの注意点」を、できるだけ整理してまとめました。

ニキビは皮脂分泌や毛穴のつまり・アクネ菌の増殖・炎症反応など、複数の要因が関わる慢性疾患です。そのため症状や肌質に応じて、治療薬の選択やスキンケアの方法が変わってきます。

正しい知識を知っていただくことで「自分のニキビには何が合うのか」「どう治療を続ければよいのか」といった不安が少しでも軽くなり、治療を前向きに進めるための助けになれば幸いです。

ニキビの主な原因

・毛穴の詰まりとアクネ菌

まずは、ニキビがどうしてできるのかを整理します。シンプルに言えば、ニキビは 「毛穴の詰まり」 と 「アクネ菌の増殖」 の2つが大きな要因です。皮脂の分泌が増えたり、角質が厚くなって毛穴の出口が狭くなると、毛穴の中に皮脂がたまりやすくなります。そこにアクネ菌(皮膚に普段からいる常在菌)が入り込み、たまった皮脂を栄養にして増殖すると炎症が起こり、赤く腫れたり膿んだりするニキビにつながります。

・毛穴詰まりやアクネ菌の活動を活発にする要因

ではどんな時に毛穴詰まりが起きやすく、アクネ菌の活動が活発になりやすいのでしょうか。これには様々な要素が絡み合いますが、代表的なものとして以下の様な要因が挙げられます。

①年齢によるもの:10代頃から出始める思春期ニキビは、成長ホルモンの影響で皮脂分泌が過剰になることが原因です。主に額や鼻周り(Tゾーン)のニキビができやすいとされています。20〜30代以降になると乾燥やターンオーバーの乱れにより古い角質が蓄積し、フェイスライン(Uゾーン)にニキビができやすくなります。

②間違った洗顔やスキンケア:洗いすぎや洗わなすぎ、乾燥しすぎや保湿のしすぎなど、いずれもニキビが増悪するきっかけになる可能性があります。

③食生活の乱れ・睡眠不足・心理的ストレス:これらはホルモンバランスや皮脂分泌・皮膚バリア機能に影響を及ぼし、ニキビを悪化させる可能性があるとされています。食事については「食べてはいけないもの」はありませんが、偏った食事にならないようご注意ください。

年齢による変化はある程度仕方のないことですが、洗顔やスキンケアの方法を見直し、生活習慣を整えることで肌の状態が安定しやすくなることが期待できます。必ずしもそれだけでニキビが治るとは限りませんが、ニキビ治療の基礎として、焦らずに少しずつ整えていくことが大切です。

ニキビの症状

次にニキビの症状についてご説明します。ニキビには、以下のように様々な症状があります。

・面皰(めんぽう)(別名:コメド):面皰とは、毛穴に皮脂や角質が詰まった状態、つまり毛穴詰まりのことを指す医学用語です。ごく初期の段階の病変を「微小面皰(びしょうめんぽう)」といい、これはまだ表面にはっきり症状が出ていなくても、今後ニキビとして現れてくる可能性が高い最初のサインのような状態です。微小面皰から進行すると、毛穴の出口がふさがり白く見える「白色面皰」、さらに毛穴が開いて病変の中央が黒く見える「黒色面皰」へと変化していきます。

・炎症性皮疹:アクネ菌が増殖して炎症が起き、赤く腫れたり、膿がたまった状態のニキビです。「赤ニキビ」や「黄ニキビ」とも呼ばれます。触ると痛みを感じます。炎症が深くまで進み、しこりのようになると嚢腫(のうしゅ)や硬結(こうけつ)とも呼ばれます。

・PIE(炎症後紅斑)/PIP(炎症後丘疹)/PIH(炎症後色素沈着):炎症が治まった後に、痕のように残る赤みをPIE、ボツボツとした赤い膨らみ(丘疹)をPIP、色素沈着をPIHと呼びます。炎症が治る過程で生じるもので、長引くことも多いです。一種のニキビ痕と言えます。(※これらは皮膚の炎症後に生じる変化を表す用語であり、ニキビに限った話ではありません。)

・瘢痕:炎症が治った後に、皮膚に凹凸の跡が残ることもあり、瘢痕と呼ばれます。凹んだものは萎縮性瘢痕(いしゅくせいはんこん)、盛り上がるものは肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)といいます。これらは治療が難しいことも多く、なるべく瘢痕に至る前に治療を開始したいところです。

ニキビはこれらの症状が同時に混在することも多い疾患です。瘢痕化したニキビは治療が難しくなるため、早い段階で適切な治療を行うことが大切です。

治療について

次にニキビの治療について、①スキンケアの基本、②保険診療、③自費診療の順にご説明します。

①スキンケアの基本

治療の第一歩は「正しい洗顔と保湿」です。洗顔は1日2回、泡で包み込むようにやさしく洗い、すすぎ残しのないようにしましょう。洗顔後の保湿剤にはノンコメドジェニックの製品を使用するのがおすすめです。(※ノンコメドジェニック…毛穴詰まりを起こしにくい成分で作られたもの)

②保険診療

【毛穴詰まりを解消する塗り薬(面皰治療薬:めんぽうちりょうやく)】

・べピオ®(過酸化ベンゾイル):硬くなった角質を溶かして剥がし、毛穴の詰まりを改善するお薬です。同時に抗菌作用もあります。以前からある「ゲル」「ローション」に加え、「ウォッシュゲル」という剤形が処方できるようになりました。過酸化ベンゾイルにかぶれてしまう人がいる点には注意が必要ですが、比較的使用しやすい薬の1つです。

・ディフェリン®(アダパレン):角質のターンオーバーを整えて毛穴詰まりを解消する薬です。抗菌作用はなく、毛穴詰まりの解消に特化しています。レチノール(ビタミンA)の誘導体であるアダパレンが主成分です。ビタミンAを過剰に摂取すると胎児の発育に影響(奇形など)を与える可能性があるため妊娠中は使用できません。

・エピデュオ®(過酸化ベンゾイル+アダパレン):面皰治療薬同士の合剤のため、より強い効果が期待できます。べピオ®だけ、もしくはディフェリン®だけでは効果が乏しい場合に使用することが多いです。毛穴詰まりを解消する効果が高いですが、その分刺激感や乾燥症状、肌の赤みが強く出ることもあります。

・デュアック®(過酸化ベンゾイル+クリンダマイシン):面皰治療薬と抗生剤の合剤です。べピオ®よりもさらに抗菌効果を高めたい時に使用します。

面皰治療薬は基本的に、ニキビ治療の全ての段階で使用します。ただ即効性はあまり期待できず、数ヶ月間以上継続することでゆっくりと効果を発揮します。またニキビの症状が見た目上良くなってからも、面皰治療薬を継続することで新たなニキビが発生するのを防ぐことが期待できます。

面皰治療薬を始めると、肌の刺激感・赤み・乾燥を伴うことがありますが、保湿薬の重ね塗りや外用頻度の調整、外用薬の変更で対応します。ただしべピオ®が含まれる薬の場合は、薬にかぶれている場合もあるため、継続の可否を慎重に判断する必要があります。面皰治療薬使用中のトラブル対応には専門知識が必要ですので、必ず担当医にご相談ください。

【菌を抑える薬(抗菌薬)】

・ゼビアックス®、ダラシン®、アクアチム®外用薬

・ビブラマイシン®、ミノマイシン®内服など

いずれも炎症の強いニキビに使われます。炎症を抑えるにはこれらの抗菌薬が非常に有効ですが、その反面長期間にわたる使用は推奨されていません。皮膚の状態にもよりますが、長くとも3ヶ月までを目安とすることが多いです。(症状に応じて、抗菌薬を使用する期間を延長する場合もあります。)

【漢方治療(内服薬)】

漢方は、体の中からバランスを整えて「ニキビができにくい状態」をつくります。

・十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)

・荊芥連翹湥(けいがいれんぎょうとう)

・清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)

・桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)

・柴苓湯(さいれいとう)

当院では、これらの漢方薬を患者さんの症状に応じて処方することがあります。独特の香りや飲みづらさがあることは否めませんが、漢方が有効な患者さんはある一定数いらっしゃる印象があるため、無理のない範囲で試す価値があると考えています。

③自費診療(自由診療)

当院では、保険診療に加えて、肌質やお悩みに合わせた自由診療の治療もご提案しています。いずれも健康保険の対象外となりますが、毛穴のつまり、ニキビ、赤み、ざらつきなど、日常的に気になる肌トラブルに対して、よりきめ細かいケアができるのが特徴です。

・スキンピールバー®

まず、毛穴詰まりや肌質ケアの選択肢として「スキンピールバー®」があります。これは、余分な角質をやさしく取り除く医療機関専売のピーリング石けんで、4種類(4色)の中から肌質に合わせて選びます。ニキビができやすい方には赤色(AHAマイルド)を使うことが多く、普段の洗顔に取り入れるだけで、毛穴の詰まりにアプローチできます。

・ビタミンC製剤(内服・外用)

ビタミンCは、皮脂の分泌を抑えたり炎症を落ち着かせたりする作用が期待できます。内服は身体の中から全体的に皮脂量を調整するイメージで、外用は気になる毛穴やニキビに直接届くイメージです。

・トラネキサム酸製剤(内服・外用)

同じように、トラネキサム酸にも内服と外用があり、こちらは炎症後の赤みや色素沈着の改善を目標に使われます。広い範囲の色素沈着には内服、特に気になる部分だけには外用、というように使い分けます。

・アゼライン酸(外用)

アゼライン酸外用薬は、海外ではニキビ治療の基本薬の一つとされるほど歴史とエビデンスのある成分で、日本でも美容目的でよく使われています。毛穴の詰まりを改善し、アクネ菌の増殖を抑え、赤みやざらつきを落ち着かせるなど、幅広い作用を持っています。刺激が比較的少ないため、敏感肌の方でも使いやすいのが利点です。

・イソトレチノイン(内服)

重症ニキビの方には、イソトレチノイン内服(アクネトレント®)をご提案することがあります。これは皮脂分泌を根本的に抑える非常に効果の高い薬で、面皰ができにくい肌へと整えていく治療です。ただし、乾燥が強く出たり、肝臓・脂質の数値を定期的にチェックする必要があったり、胎児への影響があるため妊娠中・妊活中の男女とも使用できないなど、注意点があります。診察のうえで安全に使用できると判断した場合のみ処方します。

・ケミカルピーリング(処置)

処置治療としてニキビに有効とされるのが、医療機関専用のケミカルピーリング「サリチル酸マクロゴール」です。サリチル酸(30%)をマクロゴールという基剤に溶かしたもので、古い角質をやわらかくし、肌表面をなめらかに整える治療です。毛穴が詰まりやすい方や、ニキビ・ざらつきが気になる方に取り入れられることが多く、施術後には一時的に赤みや乾燥、皮むけが出ることがあります。回数やペースは肌の状態に合わせて調整し、初めての方や敏感肌の方には、肌の反応を確認しながら無理のない範囲で進めていきます。

・IPL(処置)

もう一つの処置治療としては、IPL(光治療)があります。IPLは特定の波長を含む「広い帯域の光」を肌に照射することで、ニキビの原因に多方向から働きかける治療です。光が皮膚に吸収されると熱エネルギーに変わり、この熱がアクネ菌(Cutibacterium acnes)が産生するポルフィリンに反応して活性酸素を発生させ、菌の増殖を抑えます。また光の熱作用は皮脂腺の活動を一時的に弱め、皮脂の分泌を抑える効果もあります。

さらに、赤みの原因である毛細血管に光が選択的に吸収されることで、炎症による赤みを落ち着かせることができます。また、真皮に届けられた熱刺激によって線維芽細胞が活性化し、コラーゲン産生が促されるため、ニキビ跡の凹凸や質感の改善にもつながります。

このように、IPLは「菌への作用」「皮脂への作用」「炎症への作用」「肌再生への作用」が一度に得られるため、ニキビとニキビ跡の両方が気になる方に向いている治療といえます。

・その他

ニキビに対して有効とされる治療は他にも存在しますが、今回は当院でお取り扱いのある治療をご紹介しました。TCAクロス、フラクショナルレーザー、ダーマペン、ポテンツァ、水光注射などはニキビ跡の改善に有効とされていますが、当院では行っておりません。(2025年11月現在)

④お化粧について

ニキビがあるときでも、完全にメイクをやめる必要はありません。ただし、油分が多いファンデーションや厚塗りは毛穴をふさぐ原因になります。帰宅後は早めにメイクを落とし、肌を清潔に保つことが大切です。化粧品に関しても低刺激・ノンコメドジェニック(毛穴詰まりを起こしにい)製品の使用をおすすめします。

まとめ

以上、ニキビでお悩みの患者さんに対して、当院でよくご説明している内容を中心にまとめました。当院では患者さん一人ひとりの肌に合わせた治療を提案していますので、気になる方はぜひお気軽にご相談ください。

参考文献

・尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023

・Oge’ LK, Broussard A, Marshall MD. “Acne Vulgaris: Diagnosis and Treatment.” American family physician 100, no. 8 (2019): 475-484.

・Orenay OM, Karaosmanoglu N, Mulkoglu C, Genc H, Temel B, Tiftik T. “Investigating the Real Effects of Isotretinoin on Enthesopathy in Acne Vulgaris Patients: A Prospective, Controlled Study.” Journal of cutaneous medicine and surgery, no. (2024)

─執筆医師─

達也執筆profire

塩味達也
湘南ジンベエ皮膚科 院長|日本皮膚科学会認定皮膚科専門医
2013年に埼玉医科大学を卒業後、大学病院・がんセンター・総合病院・地域クリニックで幅広い皮膚科診療に従事。現在は、神奈川県藤沢市・湘南台駅東口すぐの「湘南ジンベエ皮膚科」院長として、地域の皆さまの皮膚科治療に取り組んでいます。また、医療記事のWebライターとしての執筆経験も豊富で、正確でわかりやすい情報発信を心がけています。


よくあるご質問

洗顔は1日に何回すればいいですか?
洗顔は 1日2回(朝・夜)行ってください 。洗いすぎると逆に乾燥して皮脂が増え、ニキビが悪化することがあります。泡でやさしく洗うこと、こすらないことが大切です。
ニキビの治療中、化粧をしても大丈夫ですか?
大丈夫です。ただし、油分が多いファンデーションや厚塗りは毛穴詰まりの原因になりますし、メイクオフの際に刺激を加えてしまいやすいので注意が必要です。ノンコメドジェニックの化粧品を選ぶと安心です。
ニキビはどれくらいで治りますか?
治療の効果には個人差がありますが、外用薬の効果が実感できるまで約8〜12週間が目安です。また見た目が良くなってからも、面皰の再発を抑えるために治療を続けることが大切です。
赤みや色素沈着(PIE/PIH)はどれくらいで消えますか?
残念ながらすぐには消えず、数か月〜半年以上かかることも珍しくありません。紫外線対策や適切な治療を行うことで、なるべく早く改善することを目指します。
イソトレチノイン(アクネトレント®)が気になります。誰でも使えますか?
皮脂分泌を抑える効果が強く、重症のニキビに対してとても有効な治療ですが、妊娠中・妊活中は男女ともに使用不可・肝機能・脂質の定期的な採血チェックが必要・乾燥などの副作用がある、など注意が多いため、診察で安全に使用できると判断した場合のみ処方します。
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