
アトピー性皮膚炎とは?
アトピー性皮膚炎は、生活の質に影響しうる病気だと思います。このページではアトピー性皮膚炎の症状や治療法、そして日常生活でお肌のケアを行う際に注意すべきポイントなどをご紹介します。アトピー性皮膚炎でお困りの方々が、少しでも快適な毎日を過ごせるサポートになれば幸いです。
アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹が良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性の皮膚疾患です。
主に乳児期から小児期にかけて発症しますが、大人になっても症状が続く人は少なくありません。あまり知られていないかもしれませんが、大人になってから発症する方もいます。
この病気の大きな特徴は「皮膚のバリア機能が弱くなること」です。健康な皮膚は、様々な刺激から体を守り、水分を保つ役割を持っています。しかし、アトピー性皮膚炎の肌はその機能が低下しているため、刺激によるダメージを受けやすく、水分が逃げやすい状態になっています。
また、ダニ・ハウスダスト・花粉・特定の食べ物などへのアレルギー体質を持つ方に多く、遺伝的な要因も関係しています。ご血縁にアトピーや喘息などのアレルギー疾患を持つ方がいる場合、注意が必要です。
症状
アトピー性皮膚炎の代表的な症状の一つに、かゆみがあります。人によってはチクチクとした違和感から、ヒリヒリと焼けつくような強いかゆみまで、感じ方はさまざまです。
かきむしることで皮膚が傷つき、さらに症状が悪化するという悪循環に陥りやすいです。アトピーの皮膚炎が長期に渡ると、皮膚が分厚くなる、皮膚の色が濃くなるといった変化も生じやすいため、早めの対応が重要です。
アトピー性皮膚炎のリスク
2024年に発表された英国の研究では、アトピー性皮膚炎の患者さんはそうでない方に比べて喘息になるリスクが約2倍高く、食物アレルギーになるリスクは4倍以上高いことが示されました。また皮膚のバリア機能低下によって、細菌やウイルスによる皮膚感染症にもかかりやすいと言われています。
逆に言えば「治療によってこれらのリスクを下げることができる」とも言えるため、しっかりと治療を行うことが大切です。
治療の基本方針
アトピー性皮膚炎の治療は、スキンケアと薬物療法を両輪として行います。症状や年齢、生活スタイルに合わせて、個別に対応していくことが大切です。
スキンケア
皮膚のバリア機能を正常な状態に近づけるためには、日々のスキンケアが非常に重要です。入浴時には、低刺激性の石けんをよく泡立ててやさしく洗います。ゴシゴシこすらず、泡で包み込むように洗って肌への刺激を抑えましょう。最後は洗い残しがないように十分にすすいでください。
入浴後は、保湿剤を全身に塗るのが理想です。また爪は短く切り、掻き壊しを防ぐことも大切ですね。かゆみが強い場合は無理に我慢せず、医師に相談しましょう。
薬物療法
症状に応じて、以下のような薬を使います。
・ステロイド外用薬
アトピー性皮膚炎の治療として、最も一般的なのはステロイドの塗り薬です。炎症をすばやく抑える効果があります。症状や部位に応じて強さや種類を調整します。
・非ステロイド系外用薬
以前は「かゆみを軽減する」効果を期待して用いる薬が主でしたが、近年この分野では、ステロイドとは異なるアプローチで皮膚の炎症を抑える新薬の開発が進んでいます。(タクロリムス・デルゴシチニブ・ジファミラストなど 2025年現在)
・抗ヒスタミン薬
アレルギー反応を抑え、かゆみを和らげます。内服薬が使われることが多いです。
・免疫抑制薬
重症の方に用いられます。感染症のリスクが上がるため慎重な判断が必要ですが、効果も高い治療法です。
・分子標的薬
中等症〜重症の患者さんにとって新たな選択肢となっている注射薬です。近年では、JAK阻害薬などの新しい内服薬も登場しており、より多様な治療が行われています。
今回は割愛していますが、ご紹介した方法以外の治療法もございます。ただ残念ながら当院で全ての治療を行えるわけではありません。医師が必要と判断した場合にはより専門的な治療を行える医療機関へご紹介させていただく場合もありますのでご了承ください。
生活習慣と環境の見直し
アトピー性皮膚炎には生活習慣や生活環境も密接に関係しています。薬や保湿剤による治療はもちろん重要ですが、アレルゲンや皮膚への刺激を減らすことで、症状の悪化を防ぐことが期待できます。以下のような点に気をつけていただくと良いと思います。
・掃除
室内のハウスダスト・ダニ・花粉・ペットの毛・カビがアトピーの悪化につながる場合があります。掃除はこまめに行いましょう。カーペットは前述の物質が付着しやすいため、できれば使用を避けましょう。
・衣服
化学繊維やウールなど刺激の強い衣類は避け、綿素材など肌にやさしいものを選びましょう。
・運動
運動は血行促進やストレス軽減に効果的ですが、汗が皮膚にとって刺激になる場合があります。運動後は早めにシャワーを浴びる様にして肌を清潔に保ちましょう。
まとめ
アトピー性皮膚炎は、かゆみや炎症が長く続くことのある病気ですが、正しい知識とケアによって、症状をコントロールしながら快適に過ごすことを治療の目標としています。
当院では、患者さん一人ひとりの症状やライフスタイルに合わせて、丁寧に治療方針をご提案しています。お悩みの方は、お気軽にご相談ください。
参考文献
・Matthewman J, Schultze A, Strongman H, Bhaskaran K, Roberts A, Denaxas S, Mansfield KE and Langan SM. “Cohort studies on 71 outcomes among people with atopic eczema in UK primary care data.” Nature communications 15, no. 1 (2024): 9573.
・Brown JM, Baran JV, Lamos L, Beacker J, Florio J, Oliveros LV, Fabbrini AL, Farrar AA, Vanderhoof JA and Wilsey MJ. “Extensively Hydrolyzed Formula and Infant Colic Symptoms: Secondary Analysis of a Prospective Cohort Study.” Clinical pediatrics 63, no. 11 (2024): 1579-1584.
・アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024
よくあるご質問
- アトピー性皮膚炎は完治しますか?
- 完治はなかなか難しいこともありますが、適切な治療とスキンケアで症状をコントロールすることは十分可能です。成長とともに症状が軽快する方もいらっしゃいます。
- ステロイドはできるだけ使いたくないのですが…。
- ステロイド外用薬は、正しく使えば非常に効果的で安全性の高い薬です。医師の指導のもとで使用し、必要に応じてステロイドの減量や非ステロイド薬への切り替えを行いますのでご安心ください。
- 子どもにも使える治療薬はありますか?
- はい。お子さまの年齢や症状に合わせた外用薬、保湿剤、必要に応じた内服薬など、さまざまな選択肢があります。